

かわいそうな、夫君。
私は彼の後を追わなかった。
それどころか、私はその後も、一度もそのブラシを、手にとりさえしなかったのだ。
えらそうに置いてあった。
私はムッとした。
それで、ノーコメント。
「なんか、あんまり嬉しくなさそうだね」彼もさすがに、私が喜んでいないと気がついたらしい。
「どうしたの?なにか、言ってよ」じゃ、申し上げましょうか。
「なんでそんなもの、買ってきたの?」「なんでって、これで掃除がやりやすくなると思ったから」「そんなに私に、掃除をさせたいの?」「私は今、座っている」「知ってる」「?」である。
たしかに私が取材したなかでも、これが問題で離婚したという夫婦は多かった。
だって」妻に許しがたいことを言われたKさんは、別の女性に方向転換する道を選んだ。
そして結局、離婚に至ったのだった。
私の場合、恋のチャンスは結婚して間もない頃、会社をやめる直前に、突然、やってきた。
願望を持つ問もなかった。
ゆえに、心積もりも、なっていなかった。
ドロドロの不倫ではなく、幼い恋愛ごっこ、の始まりだった。
出会いは、仕事がらみのパーティだった。
私はミニコミ誌編集の仕事をしていたから、仲間内の飲み会もあれば、異業種交流会や作家の出版記念パーティなど、いろんな会合に出席する機会があった。
そんなふうに参加した飲み会でも、出会いのチャンスはあるものなのだ。
私が出会った男性は、若くして認められたSF作家のH良京さんだった。
この場合、編集「アナタの『××××』という作品、すばらしかったですわ!」くらいのセリフで、持ち上げてみたいところだ。
「はあ。
どうでしょうね」初対面の会話は、このように無礼極まるものだった。
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